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経年を個性へ昇華する、
新旧が紡ぐデザインの可能性
建築家・デザイナー山下 泰樹Taiju Yamashita
建築家・デザイナー山下 泰樹Taiju Yamashita
どのような想いで、今回のリボーン計画に臨まれましたか?
周辺エリアでは新築ビルの開発が進んでいるなか、築40年ほどの日比谷セントラルビルは、建て替えるにはまだ早く、活かしていくべきと思いました。日本の建築は木造文化が強く、築30年~50年程度の短い周期で建て直しがちですが、欧州などでは100~200年の建物もあります。そこで今回のリボーン計画が一石を投じるプロジェクトになれば、とても意義があるのではと考えたんです。僕はデザイナーとして「古さこそが個性」という捉え方ができないかと思ったんです。例えばヨーロッパや京都の街並みを見て、古くて嫌と感じる人は少なく、素敵だなと思う人たちの方が多い。経年とうまく向き合い、新築だけが全てじゃないことを強く示せたらと考え進めていきました。
外観に使われている花崗岩も、既存をそのまま残しているそうですね。
当時の建築資材は現代と比べて、よいものを使っているんですね。それを単純に剥がすのはもったいないし、風合いがよく出ていたので活かす選択をしました。古い外観も新しい素材と組み合わせることで古く見せない。今回は新たにホワイトセルぺという石を組み合わせましたが、既存の石が高級な素材ですから、既存に対して負けない素材で新たな個性を出すことを意識しました。
既存を活かすデザインだからこそ出てくる課題があったかと思いますが、どのようにデザインを展開されたのでしょうか?
計画前のビルを下見した際にまず外観にポテンシャルを感じ、刷新しなくてもよいと思いました。ただ中に入ると青白い光が煌々としたスペーシーな空間が広がっていたんです。現代人にとって心地よい空間とはギャップがあり、当時描かれた未来は実際には来なかった。そこは大きく再設計する必要があると思いました。そこで、今回はクラシックなトーンでデザインをまとめることにしました。経年に十分対応できる威厳ある外観は、さらに100年続いてもおかしくない風格。対してインテリアは古いことを受け入れるデザインを考えていきました。老舗の温泉旅館に行ったら、フルリニューアルして中途半端にモダンになっていて残念だと感じることよくありませんか?全てをなくして新しくするのではなく、既存のよいものを見つめ古いことを受け入れる。僕はその方がかっこいいと思うんですよね。
新築の空間とは違い、上質でありながら入った時に不思議と落ち着きのある空間ですよね。
日本の商業空間やオフィスの多くは、明るすぎるほどに十分照度が取れているんです。一方ホテルなどはなんとなく空気感がよく落ち着きますよね。人が感覚的に感じる心地よい空間は、人物の顔が最低限見えるほどの照度しかないことが多いんです。日比谷セントラルビルでは、経年を受け入れながらも居心地よく過ごせる場として、空間に光を当てるというより影をどうつくっていくかをデザインしていきました。
影をつくるデザインとは具体的にどのようなことでしょうか?
細かいディテールをよく見るとスリットや目地、縫い目が入っていたり、それらがつくる影を意識しながらデザインしました。何年経ってもあたたかみを感じる飽きない空間とは、ディテールを細かく丁寧に出したデザインだと思うんです。今回もクラシックの中にモダンな雰囲気をミックスさせ、ちょうどよいバランスに調和させていきました。僕は普段こういう空間のことを色気のある空間と表現しているんです。
最後に、完成した日比谷セントラルビルに対して思うことを教えてください。
ビル全体のクラシックさに対して、経年を受け入れるデザインに振り切ることでよさが出てきたと感じています。年を重ねていくことが美しいという発想ですね。この味は、新築には出せない。日比谷セントラルビルがもつ世界観が、この先も長く愛されていくとよいなと思っています。