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INTERVIEW 02

吉田 裕美佳氏
  • HEAD OFFICE
  • THE LOUNGE
  • THE WORKPLACE

洗練されたデザインと光による演出が、居心地のいい空間を生む

デザイナー・代表 吉田 裕美佳 Yumika Yoshida

吉田裕美佳さんが手掛けるオフィス空間からは、心地良い上質さが感じられます。現在のワークスペースに求められているものをどう捉えていますか?

オフィスに求められるものは、この数年で大きく変わったと感じています。以前は効率や集中といった“タスク”に重きが置かれていましたが、今は「人がどう過ごすか」「どうつながるか」という“場”としての役割が増していると思います。
その場にいたくなる、ふと会話が生まれる、そんな“滞在の質”を高める空間が求められていて、だからこそ柔らかさや余白のあるデザインが必要だと感じています。

居心地の良さを生み出す設計にはさまざまなアプローチがあると思います。なかでも光が重要とのことですが、「三井物産都市開発/本社オフィス」、「THE LOUNGE」、「THE WORKPLACE」のデザインで重視したポイントを教えてください。

光によって時間の経過を感じることは、人間にとってとても自然な感覚だと思います。「三井物産都市開発/本社オフィス」「THE LOUNGE」では、そうした自然な環境をどのように空間のなかでつくり込むかを考えました。
自然光がふんだんに入り込むことはもちろん、新たに導入した照明はサーカディアンリズムに対応した調光・調色可能なタイプを採用し、時間の流れとともに空間の雰囲気も静かに移ろうような、そんな環境を目指しました。
「THE WORKPLACE」は、天井に半埋め込みの木製天井格子を入れることで、照明を効果的に演出し、格子の規則性と照明の浮遊感が強く印象に残る空間になっており、新旧が融合した日比谷の街並みに合う、上質でモダンなエントランスを目指しました。

さらに、光の質にまでこだわっているとお聞きしましたが、この“光の質にこだわる”というのはどういうことでしょうか?

「三井物産都市開発/本社オフィス」、「THE LOUNGE」では、既存の連続する窓のデザインを活かしつつ、壁に厚みを持たせることで、自然光がやわらかく室内に届き“滞在を促す光”となるように工夫しています。また、光の受け止め方を意識したマテリアル選定にもこだわりました。壁面は朝と夕方で微妙に表情を変え、時間の経過を感じさせる空間となっています。
「THE WORKPLACE」では、光を受けて柔らかく居心地の良い空間を演出するカラートーンを選定し、落ち着いた色合いの中に、質感のあるファブリックや経年変化を楽しめるリアルなマテリアルを用いることで、視覚だけでなく触れたくなるような上質な空間に仕上げました。

光や色、マテリアルに関することのほかに、導線や目線など設計面でのポイントも教えていただけますか?

「三井物産都市開発/本社オフィス」では、細長い躯体形状の特性を活かし、空間に奥行きを感じられるようなゾーニングを計画しました。梁のラインに沿ってのみソリッドな壁を設け、それに直行する壁面はすべてガラスとすることで、異なる高さの壁が重なり合い、視覚的にレイヤーのような奥行き感を生み出しています。
また、動線計画においても、行き止まりのない回遊性のあるレイアウトを採用し、人の流れが自然に誘導される構成としています。この「視線の抜け」や「人の気配が感じられる工夫」によって、安心感のある空間が生まれ、偶発的なコミュニケーションが生まれるきっかけにもなっています。

最後に、心地良さを重視したオフィスがもたらす影響は、そこで働いている人や仕事にも良質の効果を与えていると思いますか?

心地よさというものは、やはりその場に長く滞在して初めて感じられるものだと思っています。そして、時間をかけて選び抜いたマテリアルやデザインは、流行に左右されることなく、古びることなく、空間の中に静かに存在し続けてくれます。
しっかりと質の高い素材を選び、丁寧に家具を設えることで、使い手の所作にも自然と気配りが生まれ、その空間への愛着も育っていくのではないでしょうか。
そうした関係性が築かれてはじめて、空間が放つ雰囲気だけでなく、心理的にも居心地のよい場所として、使う人に良い作用をもたらしてくれると感じています。